コト出産記 その2

子供がでてきたあとは、これまで体内で母体から赤ちゃんに栄養を送りつづけてくれた胎盤をださなければならない。ミコの時の経験だと、赤ちゃんが出てきたあと、軽い陣痛がきて、ちょっとイキむとぬるりとでてきた。が、今回は短期決戦で力を使い果たしたせいか、自力で押し出す体力も残っていなければ、それを助ける陣痛もこない。看護士は先生に子宮をマッサージして胎盤を押し出すように助言する。先生は「そうね」とためらわず思いっきりお腹を押す。うっと痛みを感じると同時に、ぬるりと温かく大きなものが外にでてきた。後産完了。これで、出産自体はお終い。

ミコの時と違って、カンガルーケアはせず(おそらく私があまりに震えて、疲れきっていたため)赤ちゃんはすぐに検査のために別室につれていかれる。ろくに顔も見ていないが、出てきてすぐに「ふぎゃー!」という泣き声が聞こえたので、赤ちゃんは大丈夫だと安心する。その後、私は痛みどめの麻酔の注射をされ会陰縫合。これがまた痛い!何カ所も刺される度にうっと短い悲鳴を上げる。注射の回数(10回くらい?)からすると、麻酔しないで縫った方がかえって痛みが少ないのでは?と、ミコの時に思ったことと同じことを思う。ああ、この後一ヶ月椅子に座れず、この傷口が痛むんだった、と忘れていたことも思い出した。

H君は、赤ちゃんのいる隣の部屋に呼ばれて、へその緒を切る。その後、分娩室に戻ってきて、へその緒がどんなに太くて堅かったかを嬉しそうに報告しにきた。そして、「君はよく頑張りましたよ。」と言う。私にとっては苦しみ99%、喜び1%の出産だが、H君にとってはエンターテインメント100%の出産(立ち会い)なのだ。ミコのときも、コトのときも、出産1週間前から「まだ〜(生まれないの)?」と毎日聞いていた。

産後、イタリアの法律にのっとって2時間、赤ちゃんは新生児室で管理保護される。私はまだかな、と思いながら昏睡状態から覚醒したかのような体で天井を見上げていた。不思議に疲れは感じない。長い間かかえていたつきものが晴れたような爽快感を覚える。出産したこと、新しい命(自分の子供)が誕生したことも遠い世界の出来事のような、未だに信じられないような不思議な感覚に包まれていた。

夜中の0時頃、個室にコトが連れてこられた。ちっちゃい!この子が今まで自分のお腹に入っていたと思うと小さくないが、もうすぐ3歳になるミコを見慣れているせいか、とても小さく見える。ずっとバシネットの中で寝ている。こわごわと抱き上げてみると、コトは一瞬目を開いて、ふたたび眠りについた。この子はどうやら神経質ではない子のようだ。生命力もありそうだ。ミコを初めて抱いた時、今にも消え入りそうなくらい弱々しく泣いていて、それを見た私も「ごめんね。。」と一緒に泣いてしまったのを思い出す。
ミコの時は(私が産後の弱った体と不慣れから)こわくてできなかったが、今回は、コトの状態もみて、母乳育児を軌道にのせるためにも赤ちゃん同室を希望して一緒に眠りについた。とはいっても、一日目は、やはり気になってほとんど眠れず、翌朝5時に看護士さんに「赤ちゃんを預かってあげるから寝なさい!」と優しく怒られて寝ることになったのだった。

後日先生に聞いた話だが、この看護士さん、私の出産後、「なんて自然で美しい出産なの!」と感動して泣いてしまったそうだ。イタリアで珍しい自然分娩だということと、私が悲鳴や叫び声を上げたりせずに静かに出産したことが「belissima!」だったとのこと。出産した本人は、生まれたばかりの赤ちゃんに麻酔薬が少量でもいくことがイヤだったのと、疲れすぎて声をだす元気がなかっただけなのだが(ミコの時も同じく、省エネ戦略で叫ばず静かなお産だった)、出産に携わってくれた方に喜んでいただけて何より♪