マテラ旅行

ひょんなことがきっかけで、三泊四日で洞窟住居の町Matera(Basilicata州)と謎のお城Castel Del Monte(Puglia州)へ遊びに行ってきた。

それは遡ること数ヶ月前の6月。ローマの老舗レストランPassettoで、日本人カップルがランチ代9万円(700ユーロ)という法外料金を支払わされた事件があった。日本でも「ぼったくりランチ」と報道され、イタリア人にも「あの記事読んだ?」と聞かれる程両国で大きく取り上げられた。(ちなみに、このレストラン、営業停止後三ヶ月で営業再開している。。)なんとこの事件を理由に、ローマより450kmかなた南の小さな町マテラのホリデイアパート経営者が、「10月1日より40日間、3部屋限定最大2泊、日本人宿泊無料!」という、本当かどうか疑いたくなるようなキャンペーンを始めたのだ。日本人にイタリアを嫌ってほしくないという意図とのこと。

たまたま、ネットサーフ中にこの記事を見つけ、半信半疑でそのホリデイアパートのホームページを見てみたら、本当にその通りだった。これは行かなくちゃ!と思い、先に寝ていたH君に「来月二日休んで。マテラに行くから。」と話しかけたら、「へ?マテラて何?」と寝ぼけながらも、いつものように「わかった」と即答してきたので早々に予約。彼のフットワークの軽さはありがたい。私のたまの思いつき企画にはほぼすべて乗ってくれる。

さて、折角ローマからユーロスターで5時間かけて長靴のかかと上まで行くのに、マテラだけではもったいない!ということで、その周辺で他におもしろそうなところは無いかと調べてみた。最近は「都会」ばかりだからちょっと自然系がいいかななんて思いながら選んだのは、オリーブ畑の丘にぽつんと立つ八角形の謎の城カステル・デル・モンテ。マテラ(サッシ)もカステル・デル・モンテユネスコ世界遺産に指定されてる。今回は世界遺産巡りの旅となった。


□マテラ (Matera, Basilicata)
まずは、マテラの洞窟住居群サッシ(Sassi)で二泊。サッシ(=イタリア語で「石」の意味)は中世かそれより以前に作られたと言われている洞窟住居群。洞窟をそのまま住居とした町で、外から見ると、イタリア小都市によくあるような白い石造りの趣のある古い町並みなのだが、それぞれの建物の中に入ってみると、そこはまさに洞窟。壁は、ちょっと力を入れると削れるような性質の石灰石で覆われ、アーチ型の天井が広がる。

サッシは長らく衰退し、つい50年前まで、家畜や人間が同居し、飢餓とマラリアが蔓延しているようなところだった。1950年代に行政が介入して、郊外に居住区を作り住民を強制移住させ、病気を根絶させた後サッシの観光開発が進められた。現在サッシ地区は、B&B、ホテル、レストラン、お土産物店、あるいはマテラ住民の第二住居として静かに開発が進められている。

町が丘にそって作られているので、階段や坂道が多い。だが、その自然の起伏にゆだねて建物が立ち連なっているため、ちょっと離れた所から町を一望すると、人が住むために作られた町というよりも、鑑賞のために作った町なのではないかと思ってしまうほど立体的で美しい。どうしてこうもイタリアの町は美しいのだろうか。住民があまりいないせいか且つオフシーズンということもあって、サッシはイタリアの町にしては信じられないほど静か。夜になると、教会の鐘の音にびくっとしてしまった。物音一つせず、人の気配が感じられないが、町全体がきれい(清潔)なせいか暗い道を歩いていても恐くない。ローマの喧噪から離れて、しばし穏やかな時間を過ごした。

今回も、観光は美しい町散策。あとは、滞在先のホリデイアパートが保有する貴族の館跡(ほぼ遺跡状態)を案内してもらったり、アパートでゆっくり洞窟生活を味わってみたり、この地方のバジリカータ/プーリア料理をいただいたりと。前回の旅行に引き続き、滞在先アパートがヒットだった。ダイニングキッチン、リビング、ベッドルームとすべて続きの部屋とジャクジー付きのバスルーム。そしてなんと、地下へと続く階段があり、降りて行ってみると、ワインセラーにたどり着いた。聞くと、その昔ワインセラーとして使われていたところをそのままデコレーションとして残して残してあるのだとか。そのデコレーションの仕方がまたシンプルながら洞窟の雰囲気に合っていて素敵なのだ。

サッシのど真ん中で、こんな素敵なお部屋に無料で二泊もさせてもらって、なんだか申し訳なく思ってしまった。ささやかなお返しに、おすすめ(おそらくアパートと共同経営か提携をしている)お土産物店で必要以上の量お土産を買った。そして後日、Tripadvisorでおすすめホテルレビューを書いてその旨知らせてリンクを送ったら、「従業員皆で読んだ!」と喜ばれた。雨の中、タクシーが捕まらない私たちを駅まで迎えに来てくれたり、事前に電車とバスの時刻表をメイルで送ってくれたりと、イタリアのホテルとは思えない程対応が早く、丁寧でプロ意識の高いサービスにも感心したホテル。値段もとてもリーズナブルなので、是非多くの人に泊まりに来てもらいたいなと思う。




カステル・デル・モンテ(Castel del Monte, Puglia)
オリーブ畑が広がるMurge高原の丘の上に、この白い正八角形の城が佇んでいる。フリードリヒ2世が13世紀半ばに立てた城だが、その建築目的、この正八角形のなぞが解き明かされていないミステリー城。狩猟あるいは防衛目的に作られたとする説が強いが、そのあまりに精密で数学的な(設計に八角形、そのた八の倍数を多用)作りに、天文学の研究用途に作られたとする説もある。建物の中の装飾はゼロ。とてもイタリアらしくない、ゲルマン民族らしい精密/機能性を追求した建築。

ここでは、ハプニング二つ。
その一。
お城に一番近い町AndriaのB&Bをメイル予約して行ってみたら(念のため、宿泊当日、お昼にチェックインする時間も電話で知らせておいた)、誰もいない。。再び、B&Bのオーナーの携帯番号に電話してみると、「すぐ行くからそこで待っていて!」とのこと。10分後、男性二人が全く悪びれるようすもなくのんびり車を止めて歩いてきて、建物の中に入れてくれた。が、来て早々、トイレ掃除を始めたり、書類を取りに戻ったりなどでチェックインするのに30-40分掛かり、時計はすでに午後八時半。。どうやら、近くにある自分のセカンドハウス(アパート)を改築してB&B事業を始めたばかり。B&Bには常時スタッフを置いておらず、掃除は外注しているものの行き届いていなかったところをたまたま発見したようだ。

イタリアのB&Bは幅が広い。アメリカやイギリスにあるようなブティークホテル+凝った朝食というところから、自分の家の一室というところまで。代々引き継がれた不動産を手放さないイタリアでは、B&Bは人気のサイドビジネス。それにしても、、私が携帯番号を持っていて、ブロークンながらも多少イタリア語ができたからいいものの、そうでなかったら、とても面倒だった。ま、場所(駅近)と値段で適当に決めた割には、部屋はとても広く(ダブルベッドにベイビーベッド付き)、荷物も翌日17時まで預かってくれたから総合的には○(マル)。


ハプニングその二。
朝早起きして、カステル・デル・モンテ行きの切符をタバッキ(タバコ屋)で買って、バス停前のバールでバスを待つ。が、待てど暮らせど来ない。あれ?と思って別のルートのバスの運転手さんに聞いてみたら、「カステル・デル・モンテ行きのバスは(観光シーズンの)9月までだよ!」と言われる。え〜!本当?!と思うが、この運転手さんが間違っていることもあるだろう(←この「相手が間違っているかも」という発想、イタリアに長くいればいるほど身に付いてくる。。)と駅の横にある交通案内所で聞いてみると、同じ答えが返ってきた。「では、どうやって行けばいいのでしょうか?」と聞くと、『タクシーで行くしか無い』とのこと。あーあ、と思いながら「タクシーの電話番号は?」と聞くと、『分からない。でもチェントロ(中心部)の広場に行けばいるから。」なんて言われて肩を落とす。

カステル・デル・モンテまで18kmとちょっと離れている。タクシーで往復するのにどれくらい掛るのだろうかと一瞬思ったが、ここまで来て見ずにローマに帰るという選択肢は無い。H君に「君は、詰めがあまいんだから。。」なんてぽつりと一言言われながらタクシー広場に向かった。

ところが、タクシーはいなかった。いないどころか、H君は、この町に来てまだ一台もタクシーを見ていないという。H君が広場をぐるっと一周して探してくるというので、ミコと二人で道角で待っていることにする。あーあと思いながら、何気なく後ろの事務所の看板を見上げると、Autoという文字が見えた。レンタカーの会社かな?ここで試しにまた聞いてみよう。

カステル・デル・モンテでバス以外の手段で行くにはどうしたらよいでしょうか?タクシーが見つからなくて。」と聞くと、そこに唯一いた若いお兄さんが、『自分の知合いに個人運転手をやっている人がいるよ、頼んであげようか?』という。その答えを聞いている横から初老の男性がすっと入ってきた。お兄さんは、『お、タイミングがいい!』と笑った。入ってきた人はその個人運転手の兄弟で、お兄さんの父親の古くからの友人なのだとか。丁度、H君も「どこにもタクシーはいなかった。。」と戻って来たので、早速その人に連絡を取ってもらって、お願いすることにした。往復50ユーロで車を出してくれて、無事カステル・デル・モンテへ行けることになった。めでたしめでたし。


今回の旅で思ったこと。イタリア語が少しでも喋れるとそうでないとでは旅の行動範囲、楽しさが全然違ってくる。やはりもっとイタリア語をやらねば!


<マテラ>
行き方:ローマよりバリまでユーロスターで4時間、バリより私鉄で一時間半
滞在先: Residence San Giorgio (http://www.sangiorgio.matera.it/)
訪問先:

<1日目> Roma→Matera移、町中散策、Matera泊
<2日目> Matera、町中散策、Matera泊
<3日目> 午前、Matera散策、午後、Matera→Andria、Andria泊
<4日目> Castel del Monte観光、Andria→Barletta→Roma

一押しレストラン:
Alle Fornaci
Piazza Casare Firrao 7 75100 Matera
TEL: 08-3533-5037

シーフードオンパレードの一流レストランで、シェフは日本に招待されたこともある。知らずに、バックパックジーンズの格好で入ってしまった。。今までイタリアで行った中で一番、お値段、プレゼンテーションともに洗練されたお料理を出すところ。マテラにくることがまたあれば、ここは是非もう一度行きたい。